1/29免許を取るため山形にある教習所に向かった。現地にいる教習生のほとんどは関東からきている大学生で、とにかくみんなグループで来ている。また合宿という非日常な空間に身を置いているせいか、みな一様にテンションが高い。期待感に満ちている若人をしり目に缶コーヒーを飲んだ。初日は簡単な適性検査と一時間だけ実際に車に乗って運転。非常にかんじの良い教官だった。ホテルのごはんはゾッとするほどまずく、学校給食のような配膳のされ方になんとなく違和感を感じる。

 

1/30ここからが地獄の始まりだった。毎日三時間弱の座学と二時間の実車で教習所内を運転する。ここでかなり閉塞された田舎を感じた。教官のほとんどは山形生まれ山形育ち田んぼをへだてて大体友達みたいなノリである。一言でいうと、田舎という環境に許されてきたセクハラジジイたちである。ここでいうセクハラっていうのは身体的な接触のことではなく、相手が完全に無自覚で行っている「性差別」のことです。この日一コマ目の実車では開口一番に「女の子はオートマで十分。マニュアル車は彼氏に乗せてもらえばいいよ、ガハハ」だったのでその時点で十二分に嫌な予感がしていたのですが、その後も「男は適度にキャバクラに行かせてガス抜きさせてやれ」「彼には下の名前で呼ばれているの?」「女の子なのに稼げる会社入ったんだね」といった発言が無限に飛び出してくる。わたしはあおり体制がないので(そもそも本人は煽っているつもりもないのだろうけど)「ウケますね」「そっすね」以外何も口に出さなかった。このままこの教員の指導を受け続けたら人を殺しかねない、と本当に思った。

 

1/31仲良くなった男の子が教習の際に車内で待機していたら、覗き込んできた教官に「なんだ男か。どうせなら女の子がいいよなぁ、君もそうだろ?」と言われたらしく、とにかくすべてがクソだと感じた。パンフレットに書かれていた「田舎ならではの優しい人柄」「アットホーム」というのは、私たちの我慢でなりたっているんですよ、と教えてあげたかった。あくまで私たちは生徒なので教官の機嫌をそこねることを積極的に行う人は誰もいないということを、忘れているのだろうか。

 

2/1到着して数日で雪にも飽きた。ホテルから教習所までの送迎バスの車内でファンキーモンキーベイビーズ湘南乃風が爆音で流れ、それに合わせてギャルが口ずさむという新しいタイプの地獄を体験し、わたしのストレスは最高潮に達した。

 

2/2娯楽がホテルの風呂とコンビニのビールしかない。言うならばマッドマックス怒りの免許合宿である。ストレス解消に寝ているからか、環境の悪さに反比例して肌のコンディションが良くなる。日本酒を四合飲んで寝る。

 

2/4仮免試験。無事合格し路上教習へ出ることとなった。ここで当たった教官はとにかくお金の話しかしない。就職先の初任給や卒業旅行の予算などを事細かにきかれて大変に不快な思いをした。山形県の初任給の平均をはるかに上回るであろう合宿費用をねん出している学生=金持ちというイメージからか何かにつけては「都会の子はお金持ってるもんね~」を連呼。めんどうくさかったので大体無視。

 

2/6自分の誕生日。ここの教習所では誕生日に長さ50センチ弱のケーキが座学の授業中にいきなり持ち込まれるとの情報を聞きつけたので事前に断っておいた。教習先で仲良くなった男の子がプレゼントとして日本酒をくれた。誕生日祝のメッセージは恋人より先に元彼が送ってくれた。この辺からストレスフルすぎてもはや記憶がない。

 

2/8空き時間はたいてい仲良くなった男の子たちと一緒にビリヤードをしている。この教習所の数少ない良いところはコーヒーと温かい麦茶が無料で飲めるところと、ビリヤード器具一式が100円で借りられるところだ。

 

2/10同じ送迎バスに乗り合わせた大学一年生の男の子にナンパされる。バスの運転手が女の子にだけお菓子を配ったり飲み物をおごっているのをみてうんざりする。わたしの救いは送迎バスの通り道にある民家に隣接したアダルトショップに貼られた「入荷しました!鬼フェラシリーズ!」と書かれた黄色い模造紙だけである。

 

2/11卒業検定。何も殺すことなく無卒業できた。学食のぬるいカレー。一日おきで同じメニューが出るホテルの朝ごはん。態度の悪い、よく言えばフランクな教官ともお別れである。さびしさや感慨深さは一ミリもなく、一秒でもはやく帰りたいという気持ちで頭がいっぱいであった。重いものを持つのが大嫌いなので、荷物をすべて着払いでホテルから送りほぼ手ぶらに近い状態で東京に戻ってくる。カメラロールの中には教習所の写真が一枚もなく、どれほど自分にとって不快な時間であったかを物語っていた。ストレスがたまりすぎていたせいで新幹線を下車して即美容室に行き髪を10センチほど切った。教習所は自分を知っている人が多すぎて本当に息が詰まる。高校や中学のときに感じていた息苦しさにそっくりだった。自分を知る人が一人もいない街の良さを再確認した。

 


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