最近なぜか異性に声をかけられる機会が増えていて、断る気力すら残っていないのと、暑い日のビールの誘惑に負けて何人かの男の子と飲みに行った。夕暮れに変わる手前の空が街に映り、真っ白の給水塔の輪郭が溶けていく。定時を過ぎても外は明るく、照り返しでスカートの中に熱がこもる。なににしますか、とりあえずビールでいいですかね。とりあえずの言葉遣いのまま会話が進む、だって本当のことを話したいと思えないから。自己防衛スキル上げすぎか、そうかもしれない。でもこれでも傷ついてきたつもりだ、男の子といる数時間をやり過ごしても怒られないくらいには。血の通った言葉と熱をもった肩は間違いなく私だけのものなのに、うすっぺらくて凪いだわたしのやさしさの上に跨ろうと「酒の勢い」とかで簡単に手を伸ばされて腹が立つ。結婚しようと言ってくれた人には申し訳ないけれど、酒浸りの父の罵声とゲロを吐いてる音ばかり聞いて育ったからか、静かできれいなひとりだけの家しか許せなくて、家庭なんてきっと作れやしない。家の鍵を開ける時の、お父さんがいませんようにという願いは大学を出るまで12年続いた。絶望以外の言葉で、この静かな祈りを認めてほしい。帰りにコンビニでロング缶のビールを3本買って家で飲んだ。飲めば飲むほど、胃の奥は重くなり、頭の中は保冷剤を当てられてるようなひやりとした気持ちになる。母親と少しだけ電話した。期待に応えられなくてごめん、とだけ伝えた。わたしは貧しい人間だ。

 

9年前の夏、昆虫キッズが好きで好きで仕方なくて新宿のライブハウスまで一時間かけて通った。一生を消費していいと思うくらい大好きなバンドがひとつあるだけで生活は急に息をふきかえしたりする。いびつで奇跡みたいなバランスで、なにかに助けを求めることがあるとしたら、きっとこんな形のものだと思う。


昆虫キッズ【シンデレラ】 2010/7/2 三軒茶屋グレープフルーツムーン

 

https://www.cinra.net/interview/201907-yamazakinaocola_kawrkc

余談だけど山崎ナオコーラのインタビュー良かった。わたしは高校生の時に15kg痩せるまで家の中でも社会でも女として扱ってもらえることはなかった。この事実は人格形成に大きく影響を与えているし、殴られ慣れることはやはりよくない。美人になる努力が必要なのではなく、美人じゃなくても当たり前に生きられないとつらすぎるじゃないか。