出張に行くから猫を預かってほしい、と言われて10日ほどうちに猫がいることになった。想像の20倍くらいの運動量で、帰ってくると部屋がぐちゃぐちゃにされてて毎日鍵を開けるのが楽しみだ。もともと動物に好かれやすいので、意外と仲良くやれている。走り回ったり、たまにおなかやひざに乗ってきたり、にゃあにゃあ鳴いたりお風呂場までついてきたり、なかなかゆかいなものだなと思う。ファンデーションバキバキに割られたりミッフィーのフィギュア壊されたりしたけど……。でもお布団に入ってきたりホットカーペットで寝てたりするの見てるとまぁかわいいしいいかとなる。かわいいの前では無力、かわいいの奴隷です。

 

前に男の子に一緒に住もうと言われたときに登録した賃貸検索サイトから、いまだにおすすめお部屋情報が届けられる。めんどうくさがりが由来してメルマガの解除をしないから、こういう過去完了形のリマインドがたまにある。住むことのなかった街の1LDKは家賃が安くて仮契約までしたけど、結局わたしが気乗りしなくて電話一本でキャンセルしたんだった。ペット可、オートロック、宅配ボックス、24時間ゴミ出しOKで水回りがきれいで駅徒歩10分以内、RCで二階以上家賃はいくら、と彼が条件を羅列しているのを見て、生活に対する温度感が違いすぎるな……と感じた。甘くも苦くもないただの出来事だけれど、あの時といまの自分のなにが変わったんだろうか。自分の変化に対してぜんぜん自覚的になれない。

 

夏の、風が体を梳かしていくときの心地よいうっとおしさや、普段なら買わない種類の缶チューハイ、暑いからと言う理由でコンビニに入るから何を買うかはあとで決める。薄着過ぎるよといわれた黒いキャミソールにこぼしたビール、すれ違わないと思った駅で知らない誰かと話しているところを見つけてしまって声がかけられなかった。あと数か月もすれば暑くなる。7か月後に死ぬと思わなかった祖母と過ごした暑い日を思い出す。扇風機に揺らぐ髪は、認知症になって白髪染めをするのをやめてからというもののずっと真っ白のままで、彫りの深い顔の祖母は外国人のように美しかった。庭の土に何度水を撒いてもすぐに乾いてしまったあの日。

春は一番好きな季節だけど、ありえないくらい憂鬱になる。気温が上がって明るい色の服が増えて起き抜けのフローリングの冷たさが緩まる頃、使い切ったはずの気まぐれが再燃して頭の奥をしびれさせる。手っ取り早く誰か傷つけたいみたいに夜になると体が動きだして、少しだけ薄まった罪悪感に便乗してはよくないアイディアを試さずにはいられなくさせる。わたしはわたしのなかの悪魔がかわいいけれど、同じくらいに面倒くさくて悪いやつだなとも思う。

 

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